はじめに:キャッシュフローの快感より、バランスシートの合理性へ
いまの都心中古ワンルームは、フルローンで購入する場合、購入直後の月次キャッシュフローがほぼ出ません。
グロス利回りは概ね4.5%前後、30年ローン金利を1.8%程度と仮定しても、管理費・修繕積立金・固定資産税・賃貸管理費まで含めると、月数千円のマイナスになるケースが大半です。
それでもこの投資が「合理的」になるのは、家賃という他人資本でローン元本が減り続け、バランスシート(純資産)が自動で厚くなるから。さらに**NISAの運用益を“定期的に利益確定→繰上返済”**に回すと、残債の減り方が一段と早まり、債務超過リスクが低下、売却の自由度も上がります。
また、グロス利回りは物足りないかもしれませんが、都心の好立地なので築年数が経過していても、空室リスクは極めて低いというのがこのスキームの肝となります。
ここでは、あえて“キャッシュフロー重視”の快感を手放し、空室リスクを抑えて“純資産が増えるスピード”を最大化する視点で、戦略を丸ごと設計します。
第1章 都心中古ワンルーム投資の「現実」を直視する
まずは前提を合わせます。
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収益構造の現在地:グロス利回り4.5%前後、30年ローン金利1.8%前後という水準では、購入初期の月次CF(手残り)は薄い、むしろ数千円の赤字になりがち。
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それでも成立する理由:空室リスクが極めて低いうえに、家賃収入が着実に元本返済に厚く充当され、毎月の純資産(資産−負債)が増えるから。この「ストックの増加」が価値の本体。
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期待値の持ち方:月々の利益を狙う投資ではなく、バランスシートを鍛える投資。短距離走ではなく、フルマラソンの設計。
「赤字だからダメ」ではなく、**“赤字=純資産を積み上げる手数料”**という発想に切り替えると、腹落ちします。どうしても毎月の赤字は嫌な場合は、頭金を多めにいれればいいだけの話。
また、なぜ一棟やアパートではなく、都心中古ワンルームなのか?それは、大儲けはできませんが、空室リスクが低く、会社員ならばフルローンが引きやすく、純資産を着実に増やすという目的に特化すればスキームの再現性が高く、基本的にほったらかしでOKだからです。手離れがいいというのはサラリーマンにとって大事です。
投資用ワンルームマンションの価格は、ローンの貸し手である銀行が、その物件の家賃をもとにした収益還元法で決まっており、それがベースとなって市場が形成されています。家賃も銀行の使用する還元率も、変動が緩やかなので、物件価格の変動が緩やかです。実需向けのタワマンのように外国人投資家の参入は限定的なので数億円のキャピタルゲインは期待できませんが、逆に言えば、悪徳業者に割高な物件を掴まされなければ、大損もしないというのが私の見解です。
第2章 不動産投資の本質:他人資本×自分の信用でストックを積む
サラリーマンには2つの強い武器があります。
ひとつは信用(長期・低利の借入が通ること)、もうひとつは他人資本(家賃)。
家賃という他人のキャッシュフローが、あなたのローン元本を返済し続ける。ここに“自分の手元資金を大きく減らさずに資産を保有できる”妙味があるのです。
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信用を資産化する:会社員の与信で長期ローンを確保すること自体が“価値”。独立後では通りにくい条件も、現役サラリーマンなら通る。特に日本の大企業(JTC)勤務なら最強です。
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他人資本で返す:返済原資のコアは家賃。あなたの財布からではなく、入居者の財布から元本が減っていく。
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ストックが勝ち筋:損益計算書(収益−費用)ではなく、貸借対照表(資産−負債)で勝つゲームだと理解する。
第3章 NISAを“繰上返済エンジン”にする理由
家賃は安定する一方で、流動性が低いのが不動産の弱点。ここを補うのが**NISA(運用益非課税)**です。
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役割分担:不動産=“守りの土台(インカムとストック)”、NISA=“攻めの原資(流動性とリターン)”。
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現金化の自由度:相場次第で利益確定のタイミングを選べ、まとまった資金を繰上返済に回せる。
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複利の使い分け:平時は投資信託で複利成長、閾値(たとえば目標利回り達成・評価益が一定額)に達したら利益確定→繰上返済。不動産側の“利息軽減”という確定リターンに転換できるのが強い。
ポイント:NISAで「いつ売るか」を最初からルール化しておく(例:5年に1回、または含み益X%で利益確定)。感情ではなく機械的に原資供給できる仕組みにする。
第4章 繰上返済がもたらす二重の効き目
① 利息軽減(確定の超過リターン)
繰上返済は“将来払うはずだった利息”を確実に削ります。市場の上下とは関係なく、確定で得られるのが他にはない魅力。返済の早期ほど利息削減効果は大きくなりがちです。
② 債務超過リスクの低下(バッファ拡大)
残債が減るほど、価格下落に対する耐性が上がる。市場調整が来ても慌てて売らずに済む=売却自由度が増す。これは実務で効く“安心のオプション”。
返済方式の私見
・期間短縮型:総利息の削減幅が大きい。完済が早まる。
・返済額軽減型:毎月返済額を下げてCFを改善。
——「赤字の小さなストレスを早く消したい」人は返済額軽減型を、「総合効率を最大化したい」人は期間短縮型が好み。私は、序盤は軽減型で心理負担を下げ、中盤以降に短縮型へ切り替えるハイブリッドを推します。NISAの利益水準や金利環境でチューニングをしていきましょう。
第5章 物件選定:築20年前後×都心好立地という“黄金レンジ”
築20年前後は、価格下落が落ち着きやすく、まだ長期ローンが取りやすい。さらに**都心好立地(駅近・生活動線・雇用集積エリア)**なら、空室リスクが低く、賃料の下支えも強いです。
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割安性の確保:近隣成約事例・路線価・賃料相場、複数データで“相対的に安い”を取りにいく。
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家賃引上げ余地:小規模リフォームや家具家電付加、募集条件の最適化で、家賃の引き上げの余地があるか。家賃の適正価格への引上げは物件価格の上昇に直結しますので、積極的に行いましょう。例えば、家賃5千円の引き上げは年間6万円の家賃上昇となり、収益還元法における割引率を仮に4%とすると、6万円÷0.04=150万円の物件価格(純資産)の上昇を意味します。
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管理の健全性:管理会社の稼働実績・空室対策・原状回復のスピード感。ここが鈍いと全てが鈍ります。管理会社とは長く付き合うためにも信頼できる会社を見つけることが大事です。広告費の比率の高い業者は避けたほうがいいと思います。派手なネット広告を打ってセミナー参加や面談しただけで5万円のギフト券プレゼント!みたいな業者をよく見ますが、結局は割高な物件を買わせることでペイしようとしています。注意しましょう。
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規制と供給:ワンルーム規制や資材高騰による新規供給の細りは、中古の相対的価値を維持しやすい材料です。都内ワンルームマンションの建設のピークは2000年~05年あたり。その頃の物件は急行停車駅近の好立地であることが多いです。それ以降はリーマンショックや規制、コスト高で供給が細り、各駅停車駅や支線の駅近など好立地とは言えない物件も増えました。なので、築年数と好立地はトレードオフとも言われています。もちろん、新耐震基準以前(1980年以前)の物件などは論外です。
“守りの投資”としての東京中古ワンルーム
CFが出にくい現相場でも、“ストックの増加”を愚直に取りにいく土台として非常に理にかなっています。
第6章 実務フロー:NISAと繰上返済を「仕組み化」する
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ルールを言語化:
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NISA積立額:毎月○万円
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利確の閾値:含み益○% or 評価益○万円
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利確頻度:原則○年ごとに判定
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利確後の用途:繰上返済に100%充当(期間短縮/返済額軽減のどちらに回すかも決めておく)
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見える化:
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スプレッドシートで「残債推移・評価額・純資産・家賃・諸経費」を月次モニタリング
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NISA口座と不動産台帳を一枚のダッシュボードに
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レビュー:
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半年ごとに「赤字幅」「空室日数」「賃料の市場乖離」「繰上返済後の削減利息」をチェック
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乖離が大きければ賃料改定・原状回復・募集条件の見直しへ
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繰上返済の実行:
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利確後は“即時に”繰上返済。余剰現金でズルズル流用しない(これ大事)。
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メンタル設計:
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月数千円の赤字は、**「純資産が自動で増える保険料」**と再定義。
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NISA利確は「勝ち逃げ」。“もっと取れるかも”の欲は封じる(繰上返済こそ確定リターン)。
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第7章 シミュレーション(概念例)
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物件:1,500万円、築20年前後、都心好立地
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ローン:30年、金利1.8%、フルローン相当
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家賃:相場並み、管理費・修繕積立金・管理手数料・固定資産税控除後、月数千円の赤字
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元本返済:初期は年間40〜50万円程度のペースで進む(※返済表による)
ここに、**NISAで毎月5万円積立(年平均5%想定)**を重ねます。
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5年目:評価益が約100万〜150万円出たと仮定 → 繰上返済
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10年目:同様に利確→繰上返済
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15年目:同上
これを繰り返すと、単純ローンよりも顕著に残債が薄くなり、純資産の伸びが加速。市場が横ばい〜やや下振れでも、エクイティ・バッファ(資産−負債の差)が厚く保てるため、売却判断の自由度が高まります。
※具体数値は金融機関の返済表とNISAの運用実績で変わるため、“自分のダッシュボード”で確認してください。ここではスキーム全体の設計思想を示しています。
第8章 よくある反論と、経験者としての回答
Q1:月々赤字なのが怖い
A:視点を損益から貸借へ。家賃が元本を削り、純資産が積み上がる限り、赤字は“保険料というか貯蓄”。ローン金利、管理費はこのスキームに参加するための手数料と考えましょう。NISAの利確で繰上返済し、赤字幅は徐々に縮小します。
Q2:NISAは長期放置が正解では?利確はもったいない
A:不動産の利息削減=確定超過リターンです。全部を売るのではなく、**利確ルールで一部を繰上返済に回す“機械的再配分”**が合理的。長期保有と利確のバランスが肝。NISAは非課税なので、タイミングを見て利益確定して、ブレの大きなキャピタルゲイン型資産から、ブレの少ないインカム型資産へ振り分けていくことがストレスの少ない資産形成には肝要です。
Q3:ワンルームは儲からないと聞く
A:新築・サブリース・地方物件への投資を指している場合が多い。都心×中古×割安×適正管理という条件下では、ストック投資として理にかなう。少しわかりにくいのは、割安かどうかという点かもしれません。中古物件でも明らかに割高な物件もあります。また、総戸数の少ない物件は管理費や修繕積立金が高く、キャッシュフローを圧迫している場合も多いです。そういうものを掴まないようにすることは大切です。難しく考える必要はありません。インターネットで調べれば周辺の物件価格や家賃の相場はすぐに分かります。営業マンに言われるがままに取り組むのではなく、相場に比べて適正な範囲かどうかを自分で確認することが大切です。
Q4:金利が上がったらどうする
A:金利の上昇を心配される方は多いと思います。対策としては、繰上返済の加速が最大の対抗策になります。金利が上がるほど、繰上返済の“効き目”はむしろ体感しやすくなります。金利が上がる局面では、NISAにおける株式資産の運用もある程度上昇しているはずで、繰り上げ返済の原資になっているはず。ただ、日本の政策金利は1%が上限、現在の水準からはあと2回程度の利上げが限界であるというのが市場参加者のコンセンサスです。過度な心配は不要と見てます。銀行の変動金利は短期プライムレートにスプレッドを加味して決まっているので、利上げ=すぐに貸出金利の引き上げとはならない可能性も高いです。いずれにしても世界的に見ても、金利2%程度で何千万円も借りれるってすごいことです。真面目にサラリーマンしてきてよかったと自分をほめてあげましょう。
Q5:節税効果は?
A:節税効果は投資初年度のおまけ程度に考えましょう。節税効果を目的に不動産投資を勧めてくる業者は減価償却費が多くとれる地方築古のアパートや収益性無視の割高な物件を勧めてくる場合が多いです。節税効果はせいぜい最初の数年だけだし、地方築古アパートは今後ますます運営が困難になってくる。また、割高な物件≒債務超過の期間が長くなりがちで純資産の蓄積を目指すこのスキームの目的に反する。外資系企業で年収3000万円以上稼ぐようなスーパーサラリーマンなら別ですが、JTC勤務の普通のサラリーマンには節税目的の不動産投資はお勧めしません。年収1千万円くらいでは大した節税効果は期待できません。
第9章 実行ステップ(チェックリスト付き)
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資金計画:生活防衛資金(6–12か月分)を別枠で確保。
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情報収集:物件の相場事例・賃料水準・募集期間の肌感覚をつける。
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融資事前相談:年収・勤続年数・属性で借入余力を把握。だいたい与信枠は年収の8倍~12倍程度。
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物件一次スクリーニング:築20年前後・駅徒歩・雇用集積・治安・住設の妥当性。
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デューデリ:適正家賃か、管理組合の修繕履歴、長期修繕計画、積立金水準、直近滞納状況。可能な限り現地確認もすること。
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事業計画表の作成:家賃、空室想定、諸経費、固定資産税、ローン返済、NISA積立・利確・繰上返済ルールを同一シートで。
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管理会社選定:リーシング力(都内なら入居率95%以上)・原状回復の速さ・見積り透明性。
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購入&運用開始:初期はCFが薄い前提で粛々と。
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NISA積立開始:低コストの広域分散インデックスを基本に(個別銘柄は“攻め枠”に限定)。
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利確→繰上返済:ルールに従って機械的に実行(悩む時間を排除)。
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半期レビュー:赤字幅、賃料乖離、繰上返済後の利息削減効果、純資産の増加ペースを確認。必要に応じて賃料・広告・回転率を調整。
まとめ:月次の小さな赤字に怯えず、「確実に太るバランスシート」を育てる
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不動産は“守りの土台”。インカム収入の柱。家賃で元本が削れ、純資産が自動で増える。
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NISAは“攻めの原資”。キャピタルゲインの柱。定期利確→繰上返済で、不動産の**確定超過リターン(利息削減)**へ変換。
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サラリーマンの特権(信用で借りる)と他人資本(家賃で返す)を最大限活用し、キャッシュフロー赤字でも勝てる設計にする。
いまの相場環境では、“CFの快感”より“純資産の合理性”を取ることが、長期の勝ち筋です。
月々の赤字に意味を与え、NISAの利確で“確定リターン”に変えていく。この地味で強いサイクルが、10年・20年ののちに圧倒的な差を生みます。
と私は信じて行動しています。